これは、ウイルスとウサギの双方の、淘汰(選択)の驚くべき例である。
ウイルスの毒性が弱まり、ウサギの抵抗性が強まった結果、現在では、オーストラリアとイギリスのウサギの粘液腫症は、ブラジルの近縁種に見られるような安定な感染パターンを示しているのである。
ヨ-ロッパのウサギは、食料源として一八五九年にオーストラリアにもち込まれ、自然捕食者がいなかったためにその数は急増した。
彼らは、自生の植物を食べて自然の野生種に取って代わったため、今ではその数が推定三億羽にまで増え、毎年オーストラリアの農作物におよそ三億ポンドの被害を与えている。
農場主たちから対策をとるよう強く要求されたオーストラリア政府は、カリシウイルス属の一種であるウサギ出血病ウイルスを試しに放すことに決定した。
このウイルスは、人間にとってのエポラのように、ヨ-ロッパのウサギにとって致死的で伝染性があるだけでなく、吸入を含む多くの経路によって広がることができるので、その影響は遠くまで及ぶはずである。
このウイルスは一九八0年代にヨ-ロッパに突然現れて、感染したウサギの九0パーセント以上を殺した。
そのため、キツネ、野生ネコ、ワシなど、ウサギを捕食する動物への影響の恐れも出ているくらいである。
一九九五年、ウサギ出血病ウイルスが、サウスオーストラリア州の海岸から五キロメートル離れた無人のウォーダング島の試験場で、厳しい検疫条件のもとで放出された。
しかし、どういうわけか、おそらく島の森林火災がウイルス媒介蚊を追い出した結果であろうが、このウイルスは大陸へ逃れ出た。
このウイルスがフリンダーズレンジ国立公園に達したときには、七五0、000羽のウサギを殺しており、オーストラリア全土のウサギに感染するのは時間の問題であった。
放出に先立って、このウイルスはオーストラリアの野生種と家畜種合わせて三一種の動物で試験されたが、どの種にも感染に対する感受性はなかった。
同様に、ウォーダング島でウイルスにさらされた作業員たちになされた血液検査も陰性であった。
このウイルスが野生状態において種の壁を跳び越える恐れが現在ないことが明らかにされたため、これに安心したオーストラリアの科学者たちは付近の数百の農場でさらに多くのウイルスを放った。
いくつかの地域では、ウサギの個体群はすでに九五パーセント減少した。
しかしウサギは、粘液腫症ウイルスの場合のように、抵抗性を発達させるため、ウサギを全滅させることが不可能であるということは科学者たちにわかっているのである。
現在のところ、この人為的なウサギの感染は巧くいっているし、計画どおりにいっている。
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